製造業や物流業界など幅広い分野で活躍し必要不可欠な存在となっている「無人搬送車」。無人搬送車とは、文字通り人間が操作しなくても自動で走行できる搬送車のことです。導入すれば人手によらず荷物の搬送が行えるようになり、人件費や人為的ミスの削減、業務効率化が実現できるなど多くのメリットが得られます。
さて、その便利な無人搬送車はいつ頃登場したのでしょうか。またどのように発展してきたのでしょうか。ここでは、無人搬送車の開発と発展の歴史を紹介していきます。
無人搬送車(AGV)の歴史は古く、初めて倉庫や工場で利用された実戦的な無人搬送車が登場したのは、1953年にバレットエレクトロニクス(Barrett Electronics Corporation)のマック・パレットが開発した「Guide-o-Matic」と言われています。
日本で実用化が進んだのは1980年代の初め頃と言われ、1990年には日本産業規格の「JISD6801」が制定され、無人搬送車が産業分野を中心に広く認知された存在となり、主に工場の生産ラインなどでAGVが活用されていました。
草創期に活躍していた無人搬送車のタイプは、「電磁誘導式」や「磁気誘導式」です。いずれも磁気テープや磁気棒などの誘導体(車両を誘導するための媒体)を床面に設置し、あらかじめ設定された範囲やルートのみを自動走行することができます。
当時としては画期的であり利便性の高いツールでしたが、決められたルートしか走行できない点において、現在の最先端技術を活用したタイプに比べれば、決して自由度の高いものではありませんでした。
電磁誘導式は無人搬送車の第一世代と言われる、草創期から活躍してきたタイプの1つです。床に敷設した誘導線(金属線)に電流を流し、発生した磁界を検出しながらコースを辿って自動走行することができます。コストパフォーマンスは悪くありませんが、ルート変更の際は誘導体の再工事が必須であり、総合的な自由度は高いとはいえません。
磁気誘導式も草創期から活躍してきた無人搬送車の一つであり、1972年に世界初の製品が開発されました。走行のしくみは、床面に磁気テープや磁気棒を埋め込み、センサーで磁気を読み取りながら車両を誘導するというものです。コース変更が容易に行えるメリットがある一方、磁気テープの損傷や剥がれに対処するためのメンテナンスが必要になります。
電磁誘導式や磁気誘導式が中心的な役割を果たした時代は、今は昔。現在はAIやビックデータ、画像認識、レーザー、高性能センサーの開発、データ分析など様々な技術が発展したことにより、無人搬送車(AGV)を取り巻く環境は一変しています。
草創期とは異なる現代の無人搬送車の特徴は、車両の自由度が飛躍的に高まり広い範囲を自律的に動けるようになったことです。初期の電磁誘導式や磁気誘導式では、あらかじめ設定した定型ルートの上しか走行できませんでしたが、現在の無人搬送車は不定形なルートでも自律走行できるようになりました。
高精度に自己位置を推定できるものや、自ら走行ルートを決められるもの、誘導体不要で自律走行可能な車両も登場するなど、初期と比べて無人搬送車の性能は確実に上がっています。現代の高度に発展した無人搬送車の代表例は、「画像認識方式」「レーザー誘導式」「SLAM方式」です。
画像認識方式は、電磁誘導・磁気誘導に次ぐ第2世代のAGVによる走行方式です。2003年に開発されました。天井や床にQRコードやARマーカーなどの記号を描出し、その記号を読み取りながら自己位置を把握し自動走行します。高精度な位置決めや位置制御が可能です。
レーザー誘導式(反射板誘導式)は、壁・床・柱に反射板を設置し、レーザーの反射で自己位置を推定し自律走行できる方式です。2014年に開発されました。走行範囲に相応の数の反射板を設置する必要がありますが、磁気テープを貼る必要はなく、車両データと経路データを変更するだけで簡単にレイアウトを変更できます。
SLAM誘導方式は、誘導体の設置不要で自律走行できるガイドレスの無人搬送車です。センサーやエンコーダ、ジャイロスコープなどを用いて自己位置を推定し、フレキシブルに自律走行することができます。AGVにおける第4世代の種類ですが、AGVの進化版である「AMR(自律走行搬送ロボット)」とも呼ばれています。
無人搬送車の歴史は、その性能を支える技術開発における発展の歴史です。草創期の無人搬送車は、誘導体を用いて決められたルートしか走行できませんでしたが、現代の無人搬送車にはセンサーやAIなど様々な技術と性能が付与され、広い範囲を自律的にフレキシブルに走行できるようになりました。技術は現在も進歩を続けていますので、それに伴い、無人搬送車も今後ますます性能を向上させ発展の歴史をたどっていくことでしょう。